水たまりの中の青空
#15 失われた関係 非常電話の連絡により、地震による停電で停止したが、エレベーターや建物にはまったく問題無いと言われ、二人は少し落ち着きを取り戻した。 幸介は自分のハンカチを広げ床に置くと、奈津をそっとその上に座らせた。 地震の規模が大きかったのか、その後も余震が続き、その度に緊張と重い空気が流れた。 幸介はなんとか雰囲気を変えようと、あるアイデアを思いついた。 「奈津さん、しりとりをしませんか?」 「じゃあ、キリン」 二人は同時に吹き出すように笑った。 「駄目ね、私って」 (なんでこんなに心が安らぐんだろう……) お互い心の内で、相手への思いが交差した。 「今度は幸介さんから始めて」 「アヒル、ね。――ル、ルビー」 「次はル、ね。――え、またル?」 「じゃあ……ルールブック」 奈津の表情が、一転して険しくなった。 「ねえ幸介さん、さっきどうして逃げたの?」 幸介は思わず息を呑んだ。 幸介は冷や汗をかきながら、必死にいい訳を考えていた。 奈津は近子の名前を聞き、心が締め付けられる思いがした。 近子が明彦を好きなことは知っている。だから、二人の恋愛話に違和感を感じていた。ただ、なぜ幸介がこんな芝居をするのか、それが気がかりだった。 「やっぱり近子とは、最初のデートでフランス料理を食べに行ったの? 彼女、おしゃれや演出にはすごくこだわるから」 だが、奈津のほうはショックを受けていた。 そのとき、突然エレベーターが動き出し、復帰した蛍光灯に二人がハッキリと照らし出された。 幸介は居ても足ってもいられず、立ちあがった。 「どうして嘘なんかついたの?」 「赤堀さんがどういう人なのか、僕は知りたかったんです。本当に、奈津さんを愛しているのか」 エレベーターが一階に着くと、奈津は幸介を避けるように走り去った。 「奈津さん!」 幸介は叫んだが、追うことは出来なかった。彼女を裏切った、その思いが重く圧し掛かっていた。 パーティー会場では、ガラスの破片など散乱したものの、会は続行されていた。 ただ、奈津との婚約発表は幻となり、彼女が会場へ戻ることも無かった。 彼らを取り巻く関係は、目に見えない運命に操られ、変化しようとしていた。 第1章 終わり |
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