水たまりの中の青空
#23 占いの影 ハロウィンのお面などがディスプレイされた街の中を、幸介と環が肩を並べて歩いている。 「ねえ、占いが終わったらラーメン食べに行こう」 占いの館は駅前のスーパーにあり、何となく威厳に欠ける印象だった。だが一歩中へ入ると、そこは別世界だった。占い師の女性はどこか神秘的で、まるで宇宙に迷い込んだかのように、幸介は場の雰囲気にのまれそうになった。 「恋愛……最近ふられたのではありませんか?」 占い師は生年月日を聞くと、タロットカードを並べ始めた。 「誰かを助けるという暗示が出ています。相手の女性は、あなたを必要としているのかも知れません。身近な女性である可能性もありますね」 幸介は内心動揺した。 外では環がソワソワしながら待ち構えていて、幸介が出てくるなり、どうだった? と質問の嵐を浴びせた。 環はドキドキしながら今後の進路を占ってもらうと、まるで全てを言い当てられたような結果に、驚きの連続だった。 「あなたには夢がありますね。でも、自信が無く、別の道を探そうとしている」 占い師はまたカードをめくると、小さく頷いた。 「あなたが進みたい道は間違っていないと思います。今後、その世界で結果を出せるでしょう」 環は天にも昇る気持ちだった。 環は、今までのモヤモヤを吹っ切ったように、意気揚々と部屋を出た。 すると、対照的に悩める兄の姿があり、環は檄を飛ばすように幸介の肩を叩いた。 「お腹すいてちゃ、いい考えも浮かばないって。それに、兄貴には私という強い味方がついてるんだから、落ち込まないの」 幸介は環の底抜けな無神経さに呆れながらも、少し気持ちが軽くなった。 (ひょっとして、身近な女性ってコイツのことか?) 幸介はそんなことを考えている自分がおかしくなり、思わず吹きだした。 「ちょっと何よ、その馬鹿にしたような笑い。もう、今日は兄貴のおごりね」 幸介には、どうやら女難の相が付きまとっているようだった。 そのころ海岸沿いの公園に、奈津の姿があった。 「奈津、早くあいつらを撒いて二人で飲みに行こうぜ」 「車じゃない、無理よ」 奈津はほかの仲間たちと飲みに行った帰りだったが、この男は仕事帰りに呼び出され、車で迎えに来たところだった。この何週間、ずっとアッシーのような生活を送っている。 「誤解しないで、私は――」 「やめてよ!」 奈津の声に驚いた仲間たちが振り向くと、男が奈津を車に押し込んでいるところだった。 「何やってんのよ晋也!」 奈津の女友達らの静止を振り切り、晋也という男は車を走らせた。みんな酔っていることをいいことに、男は自分の欲求を満たそうと手荒な手段を使ったのだ。そんな自分に動揺しているのか、男は鼻息荒く、小刻みに体が震えていた。 奈津は堕落した自分を後悔しながら、恐怖と何もかも捨てたい気持ちに駆られた。 (もう、どうなってもいい――) |