水たまりの中の青空
#11 婚約指輪 昼休みを抜け出し、海岸線をドライブしていた赤堀と奈津は、海が見える公園まで来て車を止めた。 「ここは……」 二人は車から降りると、東京湾が見渡せる場所までゆっくりと歩いた。 「あの日も、こうして風が気持ち良かったわ。あなたがバルセロナで見た夕日の話をしてくれて、いつかあの海や街を小説に書きたいって言ってたの……覚えてる?」 「ミニのタイトスカートに派手なメイクをして、私あなたの大ファンなんですって、本を10冊も積み上げた。随分大胆な子だなって驚いたよ」 「もう、あれから五年か」 そう言うと、赤堀が奈津の手を引き寄せ、甲にキスした。 「――なに?」 奈津が戸惑いながら尋ねると、薬指にそっとダイヤモンドの指輪が嵌められた。 「婚約指輪……!?」 奈津は赤堀が本気だったことを知り、涙を滲ませながら頷いた。 (どうしてだろう……裏切られても……あなたが好き) 幸介は僅かな望みを託しながら、明日のパーティーに向け、いつもの床屋を中止して美容室で散髪を済ませた。 (驚くかな、奈津さん。これでタキシード着たら、ちょっとしたハリウッドスターだよな) 幸介が次から次へとショー・ウインドーに自分の姿を映していると、喫茶店でサンドイッチを運んでいた環が、偶然それを見かけた。 (ひえッ、どうしたのよ兄貴その頭!?) 環は茫然としながら、兄が通りすぎていくのを見送った。 ――なぜか幸介の頭は、茶髪だった。 |